マゲシカを守る「人権救済申立て」ご参加のお願い
関心を寄せてくださる環境保全団体および個人のみなさまへ
馬毛島(まげしま)の自然を守る会
代表 長野広美
鹿児島県西之表市伊関1115
この呼びかけは、私たち「馬毛島の自然を守る会」が、マゲシカに象徴される馬毛島の自然を守るための「人権救済申立て」を日弁連(日本弁護士連合会)に対して行うにあたり、賛同人(※)として連名いただくことをお願いするものです。以下、当会が保全活動の対象としている馬毛島と、その馬毛島で現実に起こっていることについてご説明します。
[※ 賛同は団体でも個人でも歓迎ですが、団体の場合は組織の正式な承認を受けていること、個人の場合は所属や肩書を明記できることを条件とさせてください。なお、賛同者(団体または所属/肩書きのある個人)は申立人として申立人目録にお名前を記載・提出しますが、裁判ではありませんので、申立人となることで法的な義務や不利益などは発生しません。詳しくは文末の説明を参照のこと。]
1.「馬毛島の自然を守る会」について
「馬毛島の自然を守る会」は、2000年に種子島の市民有志が中心となって発足した、鹿児島県西之表市に拠点を置く小さな環境保全団体です。種子島の歴史と生業を支えてきた馬毛島の生物多様性、その象徴であるマゲシカ、そして島が支えてきた豊かな漁場を後世に残すことを目的とし、馬毛島に関する調査、情報収集、行政への働きかけなどを行っています。
しかしその馬毛島が、民意を問うことも国会で審議されることもなく、国によって160億円という法外な金額(税金)で買い取られ、地元の大多数の民意に反して米軍FCLP(空母艦載機陸上離発着訓練)施設を兼ねた自衛隊総合基地の建設工事が急速に進められています。そこで当会は、この巨大な環境破壊から馬毛島の生物・生態系と歴史を守るため、日本弁護士連合会に「人権救済申立て」を行うことを決意しました。
2.マゲシカと馬毛島の自然
マゲシカはニホンジカの亜種の1つで、馬毛島と種子島に生息しています。地元ではとくに馬毛島のシカたちを「マゲンシカ」と呼び、宝の島・馬毛島の住人として大切にしてきました。しかし2007年には前地権者による違法開発で激減したため、環境省により「馬毛島のニホンジカ」として「絶滅のおそれのある地域個体群」にリストされました(注1)。近年の遺伝子研究では、ニホンジカの中でもヤクシカと並んで独立した古い系統であり、馬毛島にしかない遺伝子タイプがあることがわかっています。
また馬毛島には、マゲシカだけでなく、ミナミメダカ(絶滅危惧Ⅱ類)・ドジョウ(準絶滅危惧)・ニホンイシガメ(同)などの淡水生物、オカヤドカリ類(全種が国指定天然記念物)、クロサギ(絶滅危惧IA類)・サシバ(絶滅危惧Ⅱ類)・エリグロアジサシ(同、集団繁殖地)・ミサゴ(準絶滅危惧)などレッドリスト掲載種40種を含む431種の野生動植物や、世界的に産卵場所が限られるアカウミガメ(絶滅危惧IB類)、北限域のサンゴ類など、陸から海まで多様かつ希少な動植物が生息し、豊かな自然に恵まれています(注2)。
注1) 環境省レッドリスト2020 https://www.env.go.jp/content/900515981.pdf
注2) 馬毛島の自然を守る会発行「馬毛島の生物相」 http://bit.ly/biota2003
3.馬毛島の乱開発の現状と生物多様性条約違反
1980年に無人島となった馬毛島では、2000年から前地権者による違法な大規模開発が始まり、海陸生態系の土台である森林が激減しました。裁判所は開発が違法であると認定しましたが、防衛省は違法を手助けするように整地料を上乗せするなどして、自分が出した評価額の3倍強にあたる160億円で島の大半を買収しました(2019年12月)。
その後、防衛省には種子島を中心に市民から約2000通の意見が寄せられ、そのほとんどはマゲシカなど島の自然や漁場、そして毎日仰ぐ岳之越(島内最高地)を残してほしいという声でした。しかし国は環境アセスメントの全手続きを、法の網の目を潜るようにわずか2年間(2021〜23年)で終えました。マゲシカがレッドリストに掲載され、馬毛島は全島が鳥獣保護区に指定されているにもかかわらず、それ以降は異常なスピードで森林伐採・造成が進んでいます。
こうした状況で、地域社会には大きな問題が起きています。まず、「漁業の島」種子島の食卓から魚が消えました。馬毛島の漁場が破壊されただけではなく、馬毛島基地工事のために国が漁船を高額の“海上タクシー”として借り上げたせいで、漁師が激減したのです。また種子島島内の宿泊施設は工事関係者で満室となり、観光客対応ができません。農業など島内産業は、多くの島民が工事人夫にかりだされて人手不足に困窮しています。そして、2024年6月には恐れていた海への土砂流出が起こりましたが、防衛省は工事とは関係ないとの見解を示しています。さらには、古来崇められ島の象徴である岳之越を削り取るという暴挙に、強い精神的ストレスを受けている人も少なくありません。
このように、防衛省が約束したマゲシカの保全措置も、生物多様性や漁場への配慮も行われているとはとうてい言えない状況です。地域社会や生態系への影響を考えない拙速な工事を進める防衛省と、不十分な環境アセスメントを容認した環境省・鹿児島県・西之表市の責任は重大です。しかしこれら一連の行為が、国民の声も聞かず、国会審議もされず、何の民主的手続きも経ずにまかり通っているのです。
1993年に採択され、日本も批准している生物多様性条約の前文では「諸国が、自国の生物の多様性の保全及び自国の生物資源の持続可能な利用について責任を有すること」「生物の多様性の保全のための基本的な要件は、生態系及び自然の生息地の生息域内保全並びに存続可能な種の個体群の自然の生息環境における維持及び回復であること」に留意すべきことを宣言しています。現在の馬毛島における開発行為が、地域の生物多様性を損ない、同条約国内法である「生物多様性基本法」(とりわけ第15条:注3)に違反していることは明らかで、早急な対処が必要です。
注3)生物多様性基本法第15条:国は、野生生物の種の多様性の保全を図るため、野生生物の生息又は生育の状況を把握し、及び評価するとともに、絶滅のおそれがあることその他の野生生物の種が置かれている状況に応じて、生息環境又は生育環境の保全、捕獲等及び譲渡等の規制、保護及び増殖のための事業その他の必要な措置を講ずるものとする。
4.人権救済制度の活用について
これまで私たちは、馬毛島の貴重な自然生態系を守るための活動を続けてきました。しかし、前地権者は公道や学校施設があるにもかかわらず地元住民や行政の調査団さえ入島を認めず、現地権者である防衛省も同様の姿勢で巨大開発工事を猛スピードで進めています。馬毛島の生物たちには時間が残されていません。裁判も選択肢の一つですが、国民の「環境権」や「自然享有権」を具体的な権利と認めないわが国では門前払いとなる可能性が高いのです。
そこで、現時点でとりうる有効な手段として、日弁連人権救済制度(注4)を活用することにしました。日弁連は1980年代に環境権が憲法25条に由来する基本的人権であることを宣言し、1992年には「自然享有権」が国民の権利であることを宣言しています。環境権や自然享有権を「人権」と位置づけるならば、馬毛島の自然生態系を不可逆的に破壊して生物多様性を損なう行為は、国民や市民団体の人権を侵害する行為と言えます。
この「人権救済申立て」が受理されると、日弁連に特別チームが組織され、関係省庁へのヒアリングと現地調査などが実施されることになります。第三者によるヒアリングや現地調査そのものがまだ実施されていない現状において、日弁連が行動を起こすこと自体にも大きな意味があります。そして調査の結果、馬毛島における「著しい自然破壊」が認められた場合は、日本政府に対しその是正を求める「勧告」「意見」などの措置が行われます。
注4) https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/human_rights/moushitate.html
5.みなさまの賛同(申立人参加)をお願いいたします!
以上のことを踏まえ、私たちは日弁連に対して「人権救済申立て」を行います。しかし、環境問題に関して人権救済措置が取られた前例はまだないため、日弁連を動かして申立てが受理され、調査が実施されるには、一定程度の数の申立人が必要となります。重大な環境権や自然享有権の侵害が馬毛島で起こっていることを多くの国民に知ってもらい、問題の共有を図るため、人権救済の申立人としてご参加いただきたく、本状をお届けするしだいです。ぜひ、ご自身ないし自団体の申立人参加をお願いいたします。また、関係者のみなさまにも私たちの想いをお伝えください。ご賛同の表明を受け、お名前もしくは団体名を申立人リストに明記させていただきます。なお、本件は裁判ではありませんので、申立人になっても法的な義務や不利益は生じないことを申し添えます。
※ 賛同のお申し込み、および本件についてのお問い合わせは、
メールで<magekai01@gmail.com>までどうぞ。
・団体の場合には、組織決定をお願いします。
・個人の場合には、「個人名(所属・肩書き)」の記述でお願いします。