マゲシカとは?

 

 マゲシカは絶滅のおそれのある地域個体群(環境省2020)で、日本列島に生息するニホンジカの亜種とされています。これまで、キュウシュウジカ、ヤクシカなど近隣の島々に住む亜種との系統関係ははっきりしませんでした。しかし、2023年に発表された森林総研等のDNA解析による研究結果により、その関係が明らかにされました。

 それによると、馬毛島・種子島のマゲシカは、屋久島・口永良部島のヤクシカ、九州のキュウシュウジカとは、それぞれ異なる遺伝的グループとして区別される独自の系統であることが示されています。

 マゲシカの主要な生息地である馬毛島では、歴史的な記録では平安時代にはシカの角や毛皮などが資源として島外に持ち出されていた記録があります。明治時代には牧畜が行われ、戦後には開拓団が入植して最大500人が生活していました。農業開拓(1947~1980年)や狩猟解禁(1975~1986年)で、マゲシカの生息数は100頭以下に減少したとみられています。

 無人島になった後、1988~2000年の研究者の調査では、1988年に約100頭、1992年に約400頭、その後2000年までは500~600頭で推移しています。200年に土地所有者により島への立ち入りが禁止されたため、軽飛行機による航空センサスが行われ、2007~2022年の間の3回の調査で277~389頭(推定数)が記録されています。

 その後、土地所有者(立石建設・タストンエアポート社)による無秩序な開発により、森林の約40%にあたる180haが伐採され、島全体の約40%の地域が伐根・切土・盛土などにより裸地化するという大きな改変を受けてしまいました。

 2019年に馬毛島は政府により160億円という法外な価格で買収され、現在、自衛隊基地・米軍基地の建設が急速に進行しています。

 防衛省は、環境アセス評価書(2023)で、マゲシカの数を推定700~1,000頭とし(2021.3~12の調査データ)、工事着工後の実態調査(2023.4~2024.1)では1,000~1,200頭のマゲシカが生息していると推計しています。アセス時と比べたマゲシカの増加率は、約2年間で20~30%に上るため、この結果については研究者も市民も首をかしげています。

 

参考

 

KKB鹿児島放送(2021.4.22)

 『マゲシカの現状は?空から調査~研究者 基地計画に募る懸念~』”Jチャン+”特集(4月22日(木)放送)

https://www.youtube.com/watch?v=Hf3uX9txAZE

 

朝日新聞デジタル(2021.4.24)

 マゲシカ保護 計画見直しを 立澤・北大助教に聞く

https://www.asahi.com/articles/ASP4R7HS4P4QTLTB00S.html?iref=pc_photo_gallery_bottom

 

朝日新聞デジタル(2022.6.18)

 馬毛島のマゲシカ、基地と共存できるか 識者の見解

https://www.asahi.com/articles/ASQ6K733XQ6KTLTB001.html?msockid=16d6d3dcd4c76e2116cdc72dd52d6ff0

 

森林総合研究所プレスリリース(2023.9.8)

  謎の鹿マゲシカの正体にDNAデータで迫る

  —亜種ヤクシカと同時期に分岐した独自系統であることが判明—

 https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2023/20230908/index.html

 

東京新聞 こちら特報部(2024.5.19)

 絶滅危惧種マゲシカが「奈良公園なみ」大繁殖? 基地建設で緑減った馬毛島、防衛省の数値で試算すると…

https://www.tokyo-np.co.jp/article/327967